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2018年05月22日

海外留学を人生のSpringboardとして有効活用するために必要な二つのAttitude

牧 兼充 派遣留学プログラム/2010年度採用 牧 兼充
派遣留学プログラム/2010年度採用
奨学期間: 2010年8月~2013年7月
応募時の在籍大学: 慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科
奨学期間中の在籍機関: カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)
現所属: 早稲田ビジネススクール准教授

(まき かねたか)
早稲田ビジネススクール准教授。 主な兼職として、カリフォルニア大学サンディエゴ校Rady School of Management客員助教授。
研究分野は、テクノロジー・マネジメント、イノベーション、アントレプレナーシップ、科学技術政策、大学の技術移転、大学発ベンチャー等。今までの研究成果は、主に (1) ベンチャー企業を創出するための大学の制度設計、(2) ベンチャー企業の成功確率の向上手法、(3) イノベーション・システムの日米比較、の3つに分類される。
政策研究大学院大学助教授、スタンフォード大学リサーチ・アソシエイト、カリフォルニア大学サンディエゴ校講師、慶應義塾大学助教・助手等を経て現職。日米において、大学を基盤としたイノベーション・システムの構築に従事。特に日本においては、政府、地方自治体の委員会に関わり、有効なイノベーション政策のあり方について模索している。
カリフォルニア大学サンディエゴ校において博士(経営学)を取得。慶應義塾大学において、修士(政策・メディア)及び学士(環境情報)を取得。
その他の情報は、Kanetaka M. Maki, Ph.D. Official Site (http://www.kanetaka-maki.org/)をご参照下さい。

私が留学を有効に活かすことができたのは、留学にあたって大切な2つのattitudeを持っていたからのように思います。このブログで皆様にお伝えすることをちょっぴりでも意識してみるだけで、留学中に得られるものがガラッと変わると思います。

 2010年から2015年の5年間、吉田育英会の奨学金をいただいてカリフォルニア大学サンディエゴ校の博士課程に留学させていただきました。
 もともと20代の頃は、慶應義塾大学で助手・助教として、SIVアントレプレナー・ラボラトリーという大学発ベンチャーの育成プロジェクトの事務局長として、プログラムの立ち上げに携わらせていただいていました。その経験から得た知見を、グローバルなパースペクティブで研究としてまとめたいと思い、留学を決意しました。
 皆様のご支援もあり、私の留学は結果的にとても有意義なものになったと思います。5年間で博士を取得することができました。米国の大学で取得した博士の学位は、世界で最も信頼される学位であると思います。この5年間の活動を通じて、英語圏で仕事をするための基盤ができましたし、日本でのキャリアもより広がりました。英語で研究する力や授業を持つ能力を得ることができました。日本だけではなく世界で戦えるという自信や、日本に依存しないキャリアも歩めるようになりました。現在、米国の研究者と一緒に論文を執筆していることを含めて、日本に戻ってきた後も色々な形で研究のコラボレーションが続いています。そして何より私が留学中に行った実績が認められて、日本に帰った今でも客員助教授として、毎年夏はカリフォルニア大学サンディエゴ校で授業を担当しています。
 このような形で、私が留学を有効に活かすことができたのは、留学にあたって大切な2つのattitudeを持っていたからのように思います。このブログでは、後輩の皆様の参考にしていただけるように、その2つのattitudeをご紹介したいと思います。

博士最終試験(Defense)にて。
卒業式(Commencement)にて。

 一つ目のattitudeは、「日本に帰ることを前提としない」ということです。ほとんどの留学生は、留学期間が終了したら日本に戻ります。でも、この戻る場所がある、ということはとても危険で、留学の可能性を色々な意味で狭めます。戻る場所を意識しながら留学生活を送ると、留学中に学ぶことや日々の行動において、戻った後に役立つものを意識的・無意識的に選んでしまうようになります。留学中にとても大事なのは、今までの人生の延長線上では気づかなかった可能性を発見すること。そのためには、日本に帰ることが決まっていても良いので、でもその上でこちらの社会で留学終了後も生きていくことを想像しながら行動してみることが有益です。こんなイメージを持つだけで、留学中の行動はガラッと変わります。どの授業をとるのか、というような話だけではなく、今日誰と会うかなどの日常的意思決定も大きく変わっていくでしょう。この感覚で日々を過ごすかどうかは大きな違いとなります。加えて、海外で過ごしている間は、周りの教員や友人、仲間に、日本に帰るということは帰る前日まで明言しない、というのも一つのテクニックです。もちろん、日本に帰ることが決まっているとしても、できれば現地でのキャリアを継続する道も探しているんだ、というメッセージを発信するだけで、周囲の人の対応はガラッと変わります。例えをあげると、日本に留学している東南アジアの学生が留学期間が終わったらすぐ母国に帰ると言う場合と、日本に残りたいので仕事を探しています、と言う場合で、親近感がガラッと変わるでしょう。それと同じことです。
 二つ目のattitudeは、「海外で学んだことを輸入するのではなく、日本での経験を輸出する」というものです。日本における留学という言葉は伝統的に、西洋において先進的なことを学び、その学んだことを日本に輸入することを目的としてきました。日本がキャッチアップ型の経済の時代にはそれでも良かったのでしょうけれども、もはや時代とマッチしていません。留学先には留学先の強みがあると同時に日本には日本の強みがあります。自分が今まで学んできたこと、やってきたこと、全ての経験を活かして、現地で、周囲に貢献していく、というスタンスが大切です。一方的に自分のために学ぶだけで、周囲に貢献できない人は相手にされないし、未来につながるネットワークを築くことはできません。ちなみに、留学中はなるべく日本人と合わないようにする、というのも、気持ちは分かるものの、本質的には間違っていると思います。留学先において周囲に具体的に貢献していくためには、仲間とのネットワークが何よりも大切で、そのときに同じ人種というのは何よりも貴重なつながりです。実際、中国人、韓国人、インド人は、様々な国において人種のネットワークを有効に活用しています。もちろん、日本人同士で集まって傷のなめ合いをしても仕方ないですし、日本人の留学生の中には、そのような人が少なからずいることも確かですから、どんな人とつき合うかはしっかり考えないといけません。でも、海外で真剣にがんばっている日本人同士の交流はとても前向きで有益ですし、そのようなつながりは、今後日本に戻っても、他の国に移っても、とても大事な関係として、活きていくことでしょう。

卒業後も毎年夏はサンディエゴに戻り、学部の授業を担当しています。
博士課程のアドバイザ Prof. Vish Krishnanとは、卒業後も交流が続きます。サンディエゴに戻った際に二人で海沿いを散歩した時の風景です。

 恐らく、留学する皆さんの中に、留学する前に、ここで述べたようなことを考えている人はあまり多くないと思います。もちろん、留学にあたってどんなスタンスをとるかは本人の自由です。でも、ここで伝えようとしたことをちょっぴりでも意識してみるだけで、留学中に得られるものがガラッと変わると思います。ここに書いてあることまで頑張らなくても、恐らく多くの皆さんは、留学という「ブランド」のもと、自分のキャリアを一歩有利なものにするでしょうから、留学中にここまで努力するのが、最も合理的な選択ではないかも知れません。でも、 今の日本に本当に求められているのは、そしてこれから中長期的に確実にキャリアを広げていく人材というのは、ここでお伝えしたようなattitudeをもって海外で学び成長した人材なのだろうな、と思います。
 ところで、私が吉田育英会の奨学金をもらう前に、吉田忠裕理事長の著作「脱カリスマの経営」を読み、この吉田育英会の設立の母体となっているYKKの企業文化について学ばせていただく機会がありました。実は、ここで述べさせていただいていることの、1番目のattitudeは、YKKでいうところの「土地っ子になれ」という話だし、2番目のattitudeは、自分の得ることを考えるのではなく、まず貢献できることを考えるという「善の巡環」の一つの形であるように思います。
 吉田育英会のコミュニティの一員にならせていただくことで、もちろん奨学金をいただくという有形の支援がありましたが、それと同時にYKKが培ってきた世界の中で活躍する人材のあり方というロールモデルを知ることができるという無形の支援もとても大きかったように思います。
 奨学金を中心としたコミュニティは、このような「文化資産」が何よりも大切で、今後私も微力ながら、この吉田育英会のコミュニティの発展に貢献できることを模索させていただければと思っております。

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