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2014年10月18日

一つ一つの体験を大切にして見つけた3つの姿勢

中島 秀人 ドクター21/2009年度採用 奨学期間: 2009年4月~2012年3月
奨学期間中の在籍大学: 大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻博士後期課程
現所属: 住友化学株式会社

(なかじま ひでと)大阪府堺市出身。
2007年3月、大阪大学工学部応用自然科学科応用科学科目卒業。
2007年10月、国際学会ISAT-2にて最優秀ポスター賞受賞。
2009年3月、大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻博士前期課程修了。
2009年4月、吉田育英会ドクター21奨学生に採用。
2010年3月、日本化学会春年会にて学生講演賞受賞。
2010年9月、基礎有機化学討論会にてポスター賞受賞。
2012年1‐2月、University of Alberta(Prof. Dennis Hall)に短期留学。
2012年3月、大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻博士後期課程修了。
2012年3月、学位取得 博士(工学)。
2012年4月、住友化学株式会社に入社。

私からのコアメッセージは、「一つ一つの体験を大切にして欲しい」ということです。成功や失敗の体験からはもちろんのこと、人との出会いの一つ一つからも何かを学ぼうとして欲しいと思います。

■はじめに
 2014年、私が生まれて30年が経とうとしています。一つの節目を迎え、今までの人生を振り返ってみると、今までたくさんの人から影響を受けてきたことが思い出されます。高校時代のテニスばかりしていた自分には、10年後に国際学会や国内学会に参加していくつかの賞をもらっている姿なぞ、想像だにしませんでした(汗をダラダラ流しながらボールを打っていた自分が、スーツを着て学会で発表をしているなんて!)。運もあったと思いますが、その時々の体験を大切にしていたことが現在の自分にとてもプラスに作用していると思います。
私からのコアメッセージは、「一つ一つの体験を大切にして欲しい」ということです。成功や失敗の体験からはもちろんのこと、人との出会いの一つ一つからも何かを学ぼうとして欲しいと思います。この記事を読んだ皆さんが、これからの日々の出来事を大切にすれば少しでも自分の望む道に近づくことになる、と思って頂けたら幸いです。
以下に大学時代のエピソードを紹介したいと思います。私が体験談から学んだ大切な「3つの姿勢」を副題として掲げました。成功からは自信を、失敗からは知恵を、そして人との出会いからは新しい世界観を得ることができます。自分の思い通りにならなかったことからも新しい世界が広がります。私の研究生活の始まりはまさにそんな思い通りにならなかったところからの出発でした。

■研究室配属 ~何事からも学ぶ姿勢~
 私が4年生へ進級した際の研究室への配属は成績順ではなく学生間の話し合い(という名のジャンケン)で決めていました。子供のころからジャンケンに弱かった私は、見事ジャンケンに負け希望の研究室に入れず、たいへん落ち込みました。大学から自宅への道のりでは、トボトボとゆっくりと時間をかけて気持ちを整理しながら帰ったことを覚えています。しかし、このジャンケンに負けたおかげで、恩師である馬場章夫教授と安田誠教授(当時は助教授)に出会うことができました(今ではジャンケンに負けて良かったと思っています)。ただ一つ言えることは、嫌々に研究室生活を送っていたらジャンケンに負けて良かったとは思えなかったということです。「一度きりの人生なのだから、この配属から何かを学ぼう!」と気持ちを切り替えることができたことが重要であったと思います。

■研究生活 ~何事も楽しむ姿勢~
 研究室に配属されて最初に辛かったのは、学部時代の問題には必ず答えが存在していたのに対して、研究室での研究テーマには答えがないことでした(この記事を読まれている皆さんも経験ありませんか?)。どんなに教科書を読んでも答えがない(答えが記載されていたら研究テーマにならないですよね)。そして実験をしても思い通りにいかない。数か月、実験が上手くいかず落ち込んでいたことがありました。その時、「失敗も立派なデータ。ここから次の策を練ることができるのだから、どんどん実験しようや。」と励ましてくれたのが、私の研究テーマの担当教官であった安田先生でした。私のテーマが立ち上がったばかりということもあり、先生とは合宿形式の勉強会や討論会に参加するなど積極的に動き回りました。未知のことに試行錯誤しながら向かっていく楽しさを教えてくれたのも安田先生でした。さらに周囲の先輩たちは失敗しても笑いながら励まし、アドバイスをくれると言った具合に面倒を見てくれました。「僕もこんな失敗があって…。だから大丈夫やって!」と経験談を聞かせてくれました。この体験から、物事が上手く行かないときに「どうして自分だけ…」と考えてしまうことが間違いであると気づきました。皆同じように失敗をして悩んでいるけれど、イキイキとしている人はそれを笑い飛ばす強さを持っているのです。今も会社の研究で苦しい時にも頑張れるのは、この時の経験があるからです。苦しい時期であっても笑いながら前向きに進みましょう!進まなければ苦しいままですが、進めば新しい展開が待っています!!


吉田育英会ドクター21奨学生の採用時

凍りついた川と著者(気温は-20℃です…)

■博士課程進学 ~何事にも全力を尽くす姿勢~
 ここが一番の難関であり人生の転機であったと思います。実は進学を両親に反対されていました。この時、親身に相談に乗ってくださったのが馬場先生でした。進学した方が良い将来が得られるのかは考えても全く分かりませんでした。その時、逆に10年後に後悔するのはどちらだろうかと考えると、こんなに気に留めてくれる先生たちがいる研究室で博士を取らなかったら、私は絶対に後悔すると思い進学を決意しました。ただ問題なのは、両親を説得しないといけないことです。自分を心配してくれての反対だとわかっていたので、なんとしても納得してもらいたくて成果を出そうと頑張りました。まずは博士課程中の学費を何とかするために奨学金へ応募しました。応募したのが、吉田育英会のドクター21と日本学術振興会の特別研究員(DC1)でした。初めての申請書類の作成と面接対策に非常に苦労し、何度も無理だと思いました。その度に踏ん張れたのは、馬場先生から学んだことがあったからだと思います。それは、「一度約束したことは、守らないといけない。万が一、守れない場合にも、どこまで努力したかを示して相手に納得してもらわないといけない。」ということです。この頃から、一見無理に見えることにも全力で取り組めるようになったと思います。結果的に、両者から内定を頂くことができました(DC1は内定辞退)。この時の頑張りがなければ、現在の私はなかったと思いますし、両親にも進学を納得してもらえなかったと思います。吉田育英会は、奨学生に選ばれたという自信と研究に集中できる環境等、当時の私に必要だったものを全て与えてくれました。さらに奨学生の先輩や後輩、アジアからの留学生と交流する場も与えて頂き、自分の世界観が膨らんでいきました。ここでは書ききれない感謝しきれないほどの援助を頂きました(他の方の記事をお読みになれば、いかに素晴らしい奨学金であるかがわかると思います)。とにかく私の進学を決めた1年は、「一度決めたことに全力を尽くせば、道が切り開かれていく」ということを実感できた年でした。

■留学(人と人との繋がり)
 博士後期課程修了間際に体験した留学は、人と人との繋がりの重要性を改めて私に気づかせてくれました。留学希望先の先生が馬場先生の知り合いであったことから快く受け入れてくれたことから始まり、滞在先の家のオーナーさんが、偶然に安田先生の知り合いであったこと。そしてオーナーさんの紹介でたくさんの方と仲良くなり、何度もホームパーティーに招待されたこと。さらには、研究室のメンバーと一緒にNew Yearをお祝いしたこと等などです。特にオーナーさんにはたいへんお世話になり、とても内容の濃い留学生活を過ごすことができました。週末のスーパーマーケット巡りから始まり、真夜中のオーロラ鑑賞(今でも脳裏に光景が蘇ります!)などこの地域に住んでいないとできないことも経験できました。オーロラの話でお気づきと思いますが、留学先(Edmonton, Canada)は最低気温が‐20℃を下回る気候でした(博士論文の関係上、この時期にしか行けなかったという事情がありました)。人によっては、こんなに寒い場所なんて、留学先に選ばないと考えるかもしれません。しかし、そんな土地だからこそ、日本では体験できないことがたくさんあります。夏場に遊覧船が運航するほど大きな川が全面凍りついているのです。そしてそこに船が氷づけにされている光景を見たときにはとても驚き、まだまだ知らない世界がたくさんあると思い知らされました。それほど英語が得意でなかった私が留学を満喫できたのは、素晴らしい人たちとの出会いと新しい環境から何かを学ぼうと日々意識できたからだと思っています。

■おわりに
 こうして記事にしていると、自分は周囲の人に助けられ、多くの影響を受けながら進んできたことを実感します。何気ない日常であっても、何か変化は起こっています。それをプラスに変えられるかどうかは皆さんの心持ち次第だと思います。一見すごくマイナスのことが起こってしまっても、後になってみればとても素晴らしい出会いになるかもしれません(私の研究室配属のように!)。最初は辛いと思いますが、起こってしまったことは仕方がありません。良いことも悪いこともどちらからも学べる人になれれば、これほど素敵な人生はないと思います。最後になりますが、様々な体験を通じて「何事にも全力を尽くし、楽しみ、その中から学ぶ姿勢」を20代に学ぶことができ、私は幸運でした。それと同時に、30代以降、これから出会う新たな体験にもわくわくする姿勢を持ち続けたいと思います。

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