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ブログ

2011年09月02日

博士課程に進学して、得たもの、感じたこと

清水 翔 ドクター21/2007年度採用 奨学期間: 2007年4月~2010年3月
奨学期間中の在籍大学: 慶應義塾大学院理工学研究科博士課程
現所属: 株式会社富士通研究所

(しみず しょう) 2005年、慶應義塾大学理工学部情報工学科卒業。2007年、慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻修士課程修了。2010年、慶應義塾大学大学院理工学研究科開放環境科学専攻博士課程修了。2010年、株式会社富士通研究所に入社。在学中より、コアネットワークを中心として、ネットワークアーキテクチャ、トラフィックエンジニアリング、通信プロトコル、および、並列プロセッサのネットワーク処理への適用の研究に従事。現在は、通信機器ベンダーの研究所において、省電力ネットワークの研究を行っている。The 14th Asia-Pacific Conference on Communications (APCC 2008) Best Paper Award, 2011 IEICE Communications Society Best Letter Award受賞。

吉田育英会のイベントを通じて、ドクター21の同期たちとの横の繋がりだけではなく、前後の代の人との縦の繋がりもできました。社会人になった今、これからも吉田育英会での縦、横の繋がりを大切にしていきたいと思います。

私は、2007年4月から2010年3月までの3年間、吉田育英会からドクター21奨学生として支援を受け、博士課程で通信ネットワーク、とくに、光ネットワークを中心としたプロトコルやアーキテクチャの研究を行ってきました。現在は、(株)富士通研究所にて、ネットワークの省電力化を実現するための研究に携わっています。

吉田育英会から支援を頂けたことで、経済的な不安なく研究に打ち込める環境が得られ、社会人と比較すると大幅に自由度の高い博士課程という環境の中で、自分のやりたい研究を研究室の同期、先輩、後輩達を進めることが出来たというのは、とても恵まれた環境であったなと、当時も感じていましたが、社会人として働き出した今、余計に感じています。

博士論文の公聴会の前後、そして、今も振り返って感じるのは、博士課程に進学したことによって、そうしなければなければできなかったであろう経験が多く得られ、そういった経験が自分の自信になっているなと感じています。その中でも、一番の経験は、合計3ヶ月(2ヶ月+1ヶ月)と短期間ではありますがベルギーのゲント大学で現地の博士課程の学生・ポスドクと研究を進めたことでした。

そこでは、自分たちとゲント大学の研究者が提案していたネットワークアーキテクチャを、ゲント大学の先進的なネットワーク実験設備を用いて実装・検証しました。最終的には、自分たちの提案する方式を用いてベルギーと日本の間に仮想網を作成しハイビジョンビデオを流すという実験を世界で始めて行うことができました。また、このときの受け入れ先の教授に博士論文審査の副査に入ってもらい、英語での公聴会を行ったことも博士課程を通じて得られた良い経験で、それによって自信が付いたと感じています。ベルギーでの実験をまとめた論文が、電子情報通信学会通信ソサイエティの論文賞を受賞することになったという、うれしい知らせも今年に入ってありました。

研究の話からそれますが、吉田育英会では夏の研修旅行や奨学生授与式とその懇親会、隅田川花火大会を見るなどのイベントがあり、私はそれを毎年楽しみにしていました。夏の研修旅行では、黒部のYKKの工場を見学しつつ、立山黒部アルペンルートなど富山近辺の観光地をアジア100の留学生達とまわりました。私の場合、ドクター21の同期たちと普段からよく会うという感じではなかったのですが、こういった旅行中には、研究の詳しいところはカバーできないながらもお互いの研究の進捗などの話をしたりして刺激を受けました。また、新しい奨学生の授与式後の懇親会時にも、同期や前後の代の人と話す機会があり、横の繋がりだけではなく、縦の繋がりも出来ました。

世の中には、奨学金を渡す財団とそれをもらう奨学生という関係だけで、特に奨学生同士の交流がない財団も世の中には多いような気がしますが、吉田育英会は奨学生同士の交流を自然と行えるような環境があって、その面からも本当に吉田育英会の奨学生で良かったなと思います。社会人になった今、吉田育英会で出来た繋がりを十分生かし切れているとは言えない状況ですが、これからも吉田育英会での縦、横の繋がりを大切にしていきたいと思います。

社会人になって、学生の時間というのは、自分の裁量で決められる範囲が大きくて、自分の研究をどういう形にでも進められるというとても貴重な期間だなと感じています。日本では、一度社会人になってしまうとなかなか学生に一度戻るというのが難しいので、吉田育英会の奨学生という恵まれた立場にいる現役奨学生の皆さんは、是非とも自由度の高さを生かして、自分の専門をとことん追求しつつも、専門バカになることなく、自分の研究領域の近隣の関係しそうな領域や世の中の事象などいろいろなところに興味を持って過ごして頂けたらと思います。そして、最終的に専門性、経験、自信、幅広い見識を持った競争力の高い人材として社会に羽ばたくことをお祈りしています。


ゲント大学での実験の様子

ゲント大学の実験設備

ゲント大学で同室だった研究者たちと

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