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ブログ

2025年07月04日

数字では表せない大切なこと

石渡 弘治 マスター21/2005年度採用 1983年 福島県郡山市生まれ
2005年 東北大学理学部物理学科卒業
2007年 東北大学理学研究科博士前期課程修了
2010年 東北大学理学研究科博士後期課程修了
    東京大学宇宙線研究所 研究員 (日本学術振興会PD)
    カリフォルニア工科大学 研究員
2013年 ドイツ電子シンクロトロン 研究員
2015年 金沢大学 助教
2020年 金沢大学 准教授

僕が大切にしていることは、“ホンモノ”です。遠回りをして苦労して得たものは手元に残り、さらに磨き上げられながら自分の大事な道具になると思います。一見非効率な作業でも、そこに“ホンモノ”へつながる道があるのではないでしょうか。

マスター21奨学生OBの石渡弘治です。早いもので、奨学生であったころから20年近くが経とうとしています。にも関わらず、お世話になった吉田育英会の方々にはこれといった恩返しもできずに申し訳ない気持ちが募り(実はそんな気持ちになったことはこれまで多々あったのですが忙しさを言い訳に何もせず、さらに申し訳なく思い)、この度寄稿させて頂いた次第です。

まず簡単な自己紹介から。福島県郡山市出身。子供の頃は父の仕事の関係で千葉県、兵庫県に住んでいました。大学進学のために宮城県で過ごした後、ポスドクとして千葉県、アメリカ、ドイツと渡り、現在は石川県で大学教員として働いています。専門は理論物理学で、特に初期宇宙の進化のなぞに興味を持って研究しています。“理論”とか“物理学”とか言うと身構えてしまう方々が多いですが、そんな堅苦しい感じではなく「なんで?」と疑問に思うことが尽きずにそのまま研究者になった、という感じです。趣味ではフィギュアスケートをやっていて、こちらももう20年弱になります。たまに「すごく上手ですね」と言ってもらってちょっぴりうれしい時もありますが、いやいやそんなはずないですよ、と返しています。

ここまで読んで「充実してそうでいいですね〜」と思った方。実はそうでもないんです。僕はいまだ何かを成し遂げた感覚はゼロで、この先に何かを成し遂げることができるのだろうかと悩んで立ち止まってしまうこともあります。つまり見かけ上現れないものが(たぶん誰にでも)あるのだと思います。




日常の研究風景。これでも清書した版のノートで、清書前のノートはもっと汚い。
改めて清書しながら見落としに気づくことも多々あり。


僕が大切にしていることは、“ホンモノ”です。例えば研究では、「僕のこの理解は果たして本当に正しいのか?」とトコトン疑い続けます。それがきっかけで論文になることもあれば、単に自身の勘違いがあっただけで、がっかりして終わることもあります。でもいずれの場合でも、自分の知識がホンモノなのかを疑い続けることで、新しいものの見方や発見につながっていくことを実感しています。

昨今では数字で表せる業績や成果が強調される傾向にあります。また、コスパという言葉に表れるように、効率重視の傾向が強まっています。他と比べたり、情報を効率よく伝えるには数字は便利で、それ自体を否定するつもりはありません。しかし、数値化できないものがそこに隠れているのではないでしょうか。また、“効率”よく得た知識は、大抵の場合すぐに忘れてしまいます。すぐに使える自分の引き出しには残りにくいです。しかし、遠回りをして苦労して得たものは手元に残り、さらに磨き上げられながら自分の大事な道具になると思います。つまり、一見非効率な作業でも、そこに“ホンモノ”へつながる道があるのではないでしょうか。

このことは研究や物理以外にも言えることではないかと思います。例えば、ポスドク時代にアメリカとドイツで経験したことからは、現地での生活は想像を越えて大変だったこと、その一方で、助けてくれる人の温かさを実感しました。こうした経験は実際に行ってこそ得られるものであって、本や人の話、あるいはオンラインなどでは決して得ることはできないと思います。

最後まで読んでくださってありがとうございます。読んだ感じ「あ〜自分にばかり目がいって周りが見えてないんじゃないかな〜」と思った、鋭いです。実際僕のもう一つの大きな悩みとして、人の役に立つためにはどうしたらいいのか、があります。それについて書き出すとまた長くなるので、ひとまずはこのへんで。

本記事はコメントが許可されておりません。

※寄稿者の状況および記事の内容は、特に記載のない限り、掲載日時点のものです。