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ブログ

2016年03月22日

これから海外に出てみようと思っている人へ~シンガポール現地採用で働くOGの話~

瀬川 縁 マスター21/2008年度採用
ドクター21/2010年度採用
奨学期間:
(マスター21)2008年4月~2010年3月
(ドクター21)2010年4月~2013年3月
奨学期間中の在籍大学: 東京工業大学大学院理工学研究科博士課程

(せがわ ゆかり)
2008 東京工業大学 工学部 高分子工学科 卒業
2010 東京工業大学大学院 理工学研究科 有機・高分子物質専攻 修士課程修了
2013 東京工業大学大学院 理工学研究科 有機・高分子物質専攻 博士課程修了
2013 Procter & Gamble, International Operations SA Singapore Branch 入社

海外に飛び出すことで、日本にいたらできなかった様々な経験をし、日々成長を感じています。私は幸せなことに人生の岐路に立ったときに、応援してくれる恩師・仲間・先輩・上司に恵まれました。色々な人との出会いが支えてくれて今の私があり、吉田育英会もその一つです。

 修士課程・博士課程在学中に吉田育英会から5年に渡りサポートを受け、博士課程を修了した2013年から現在までP&Gシンガポールで研究開発をしています。吉田育英会のブログに投稿させていただくのは二回目なので(前回は博士課程在籍中)、今回は就職活動からシンガポールで現地採用として働くにいたった経緯をお話したいと思います。このブログをとおして、これから海外に出てみよう、何か新しいことに挑戦してみようと思っている人の助けになれば幸いです。

● 国際交流と留学
 在学中は留学や学会を通して多くの国際交流をする機会を与えていただきました。中でも吉田育英会のサポートで行かせていただいた1年間の米国留学は私の人生に大きな影響を与えた経験の一つです。
 博士1年の夏から米国シアトルにあるUniversity of WashingtonのChristine Luscombe先生の研究室に留学しました。当時の私の英語力はとても低く、国際学会で質問されても相手の質問を聞き取ることすら難しい状況でした。ただ、渡米して半年くらいで間違っても下手でも堂々と英語を話し、わからないことはわからないと聞きかえす度胸がつきました。アメリカには色々な国の人がいて、第二言語として英語を話す人もたくさんいます。よく聞くと文法を間違っている人もいますが、誰も気にしません。結局、母国語でも外国語でも伝えようとする気持ちがとても大切で、さらにはその内容の方が重要です。それを身をもって実感し、間違いを恐れずに色々な人と話すようになってから私の英語はかなり上達しました。
 また、日本人というアイデンティティーを意識するようになったのも留学がきっかけでした。日本とういう島国を飛び出し、自分が外国人というマイノリティーな環境になり初めて日本人の長所と短所が見えました。例えば、日本人は相手の立場になって考えられる思いやりの心や細かな気遣い、責任感、限られた資源の中で創意工夫する力などが長けている一方で、発言力がとても弱いです。日本では言葉にしなくても通じる「空気を読む力」が要求されますが、海外で発言しない人は何も考えていない人と思われ損をします。自分の意見を持ち、文化や考え方の違う様々なバックグラウンドをもつ人の中で発言することの大切さを知り、伸ばしていかなければならないと痛感しました。
 また、吉田育英会のイベントでも外国人奨学生と国際交流をする機会が多々ありました。中でも一番印象に残っているのは富山旅行です。1泊2日の旅行を通して、国籍・研究分野の異なる様々な人と仲良くなることができました。さらに、留学から帰ってきた英語力を試す良い機会にもなりました。
 このように様々な国際交流を通して自分の新たな長所や短所を発見し、グローバルな環境で働きながら、自分を成長させたいと思うようになりました。


Dr. Lucsombe研究室のメンバー
(University of Washington, Seattle)

吉田育英会奨学生で五箇山に旅行

● 就職活動
 博士課程2年の冬、私も周りに倣って就職活動を始めました。卒業して数年は海外で働きたいと思い、若いうちに海外で研究をさせてくれる日系企業を探しました。しかし、海外の大学への留学制度や工場はあるものの、先端の研究所を海外に持つ会社は多くありませんでした。さらに、博士号取得者には日本国内の先端研究所で研究をしてもらいたいという企業が多く、希望に沿う会社は中々見つかりませんでした。大学や国の機関での博士研究員(ポスドク)も考えましたが、自分が作った製品が市場に出るのを見てみたいという想いが強く、それなら直接海外に行ってしまえとP&Gシンガポールの現地採用の道を選びました。片道切符・現地採用でシンガポールに行くことは非常に迷いました。シンガポールはおろか、東南アジアに行ったことがなく、生活は大丈夫か、本当にやっていけるのか不安だらけでした。ただ、P&Gの社員がとても魅力的で、こんな人と一緒に働いてみたい、こんな人と働いたらもっと成長できると思いました。そして、留学で得た度胸と挑戦してみたいという好奇心が私の背中を押してくれました。

● 現在の仕事
 私が勤務しているP&Gシンガポールイノベーションセンターは27カ国から約400人の研究員が集まり、処方開発からパイロットプラントの建設まで行うアジア最大の研究開発の中心地です。現在は固形石鹸の研究開発をしています。どのような処方が消費者に喜ばれるか、消費者のニーズを満たしつついかに無駄な工程・原料を省くか、新処方をどうやってグローバルに展開するか、実験室規模で開発されたものをどのように工場規模で製造するか、などを研究しています。同じオフィスで働く社員はもちろん、世界中の社員と日々電話・ビデオ会議をとおしてプロジェクトを進めます。最近は石鹸を作る実験室をSGICに立ち上げるという大きな仕事を成し遂げ、CEO賞を頂きました。実験室規模で開発した処方が市場にどんどん近づき、工場のラインで生産され出荷されるのを見るのをとても楽しみにしています。


P&G H&S(ヘアケア)製品のテレビコマーシャルに出演

● 最後に
 海外では競争社会かつ実力主義で、入社して直ぐに即戦力として期待されます。日本で日本人と働いていたらもっとスムーズに進むのに、日本語だったらもっと上手く伝えられるのに、と思うことも多々あります。ただ、新しい価値観やアイディアに触れ、日本ではできない経験をとおして学んだことは将来大きな財産になると確信しています。
 初めから自信満々で海外に飛び出す人は殆どいません。私も未だに不安だらけで自信はありません。しかし、日本にいたらできなかった様々な経験をし、日々成長を感じています。どの道を選ぶかに正解なんてありません。ただその選んだ道をどう生きていくか、道の先に何を見るかが重要だと思います。私は幸せなことに人生の岐路に立ったときに、色々なアドバイスをくれ応援してくれる恩師・仲間・先輩・上司に恵まれました。色々な人との出会いが支えてくれて今の私があり、吉田育英会もその一つです。
 吉田育英会からは奨学金の賞与が終わった今も毎年手書きのメッセージが添えられたクリスマスカードが届きます。このような心のこもったあたたかいサポートが在学中はもちろんのこと奨学生を修了しても続いており、私の大きな支えとなっています。吉田育英会のおかげで得られた経験や人間関係は何にも代えがたい一生の宝で、奨学金以上のものを与えていただきました。これからは様々な形で恩返しできたらと思っています。まずはこの文章を通して、吉田育英会の奨学生もしくは未来の奨学生たちが何か新しい一歩を踏み出すときの助けになればうれしいです。

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