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2014年10月17日

吉田育英会カーターセンター奨学生レポート(2)

古澤 嘉朗 カーターセンター/2005年度採用 奨学期間: 2005年9月~2006年8月
現所属: 広島市立大学国際学部専任講師

(ふるざわ よしあき)筑波大学国際総合学類を卒業後、英国ブラッドフォード大学大学院平和学研究科から修士号、広島大学大学院国際協力研究科から博士号を取得する。関西外国語大学専任講師を経て、2014年4月より現職。過去に日本学術振興会特別研究員DC2/PD、英国セント・アンドリューズ大学平和紛争研究センター客員研究員や広島平和構築人材育成センター・プログラムオフィサーを歴任。共著に『平和構築へのアプローチ』(吉田書店、2013年)、『アフリカの紛争解決と平和構築』(昭和堂、2011年)など、サブサハラ・アフリカの平和構築・治安部門改革に関する論文を多数執筆。

吉田育英会の提供してくださるこの貴重な機会をどう今後に活かしていくのかは私たち次第です。私たち次第ではとても有意義な経験を積むことができます。

■カーターセンターでの経験を振り返り~選挙監視活動に従事

私は、2005年9月から2006年8月にかけて、吉田育英会にご支援をいただき、米国ジョージア州アトランタ市にあるカーターセンターのデモクラシー・プログラムに1年間在籍しました。アトランタでの生活からもうすぐで10年が経ちますが(!?)、とても楽しく、充実した1年間だったといまでも強く思います。

当時の私は英国ブラッドフォード大学大学院平和学研究科の修士課程に在籍していたのですが、修士課程修了後にすぐに博士課程へ進学するのではなく、専門に関連した職務経験を数年間ほど積みたいと考えていました。英国の修士課程は1年間ということもあり、当初の予定では私は2004年9月に入学していたので、2005年9月に修士論文を提出、同年12月に修士課程を修了する予定でした。修士課程修了後にどのように職務経験を積むことができるのかを模索する中で、吉田育英会カーターセンター奨学金事業については学部時代にポスターを見てメモしていたので、ダメもとで応募してみました。その結果、幸運にも奨学生として採用していただけることが決まり、研究科に相談し修士論文の提出を2006年9月に延長してもらい、晴れて渡米したのが2005年8月のことでした。

私はカーターセンターの中のデモクラシー・プログラムという、選挙監視活動(election observation)を専門にする部署に1年間所属しました。

紛争後社会が復興の歩みを進める中、和平プロセスに対する国民からの承認を得るという意味でも、選挙を実施することの意味は大きく、またその選挙が「自由かつ公正」(free and fair)であり正統だったと国内外に示すことは和平の歩みを着実なものにするためにもとても重要なことです。これは紛争後社会に限らず、不安定な移行期社会においても同様のことがいえます。

選挙監視活動とは、選挙を行う当該国からの招待を受けた組織が、選挙日前後の選挙プロセスをモニターすることを指します。選挙人名簿が更新されているか、選挙活動に対する妨害活動が行われていないか、選挙当日に投票所で不正行為が行われていないかなど、いろいろとモニターするポイントはあります。日本で選挙監視活動というと、選挙日前後1週間ほど派遣される短期派遣(short-term observer)を意味することが多いのですが、カーターセンターでは数か月前からモニターする長期派遣(long-term observer)も併せて行っています。選挙監視活動には、短期派遣が多い外交団(例:米州機構や欧州連合、各国政府)、そしてカーターセンターのように短期と長期を派遣する非営利組織の大きく2つがあります。非営利組織の中でも、カーターセンターはジミー・カーター元大統領が設立した組織ということもあり、米国政府(国務省)や他国政府から直接・間接的に依頼が舞い込む、とても興味深い立ち位置にあります。

例えば、ガイアナ共和国で行った1週間弱のニーズアセスメントにスタッフやコンサルタントの方に同行した時のことですが、政治情勢について米国大使館で大使・政務官と意見交換を行ったり、急きょ国連開発計画事務所で開かれていたドナー会合に招待され参加したりしたことは、カーターセンターのユニークな立ち位置を示すエピソードの1つだと思います。また、エチオピア連邦民主共和国で行った1週間弱のニーズアセスメントに同行した際にも、米国大使館や国際機関など多くの関係者と連日朝から晩まで情報交換が行えたことも(本当に朝から晩まで聞き取りをしていたので、かなりタフで良い経験になりました)、また私は同席をさすがに許されなかったのですが当時の大統領とスタッフの面会が急きょセッティングされたこともカーターセンターならではだと思います。

選挙監視活動に対する理解が深まったという意味でも貴重な1年間でしたが、欧米系の大手のNGOの運営方法について触れることができたこと、またそこで活躍しているスタッフの方々と共に仕事ができたことも、とても貴重な財産になっています。


カーター元大統領の故郷プレインズのピーナッツ・フェスティバル

カーター元大統領の故郷プレインズにある元選挙事務所前にて

■カーターセンター奨学生を志す皆さんへ

カーターセンターは1年を通して数十人の無償の「インターン」を受け入れています。この場合の「インターン」というのは4か月間ほどと期間が長いので日本企業が行う「インターン」とは少し違うのですが、学部生や大学院生(修士&博士課程)が全米各地から集まってきます。地元の大学の学生もいれば、ハーバード大学やスタンフォード大学など有名校からの参加者もいます。吉田育英会奨学生として派遣されると受け入れの関係もあり、「インターン」の人たちと行動を共にすることが多く、同世代の彼ら・彼女らからもとても良い刺激をもらえます。ただ、「インターン」の場合は通常4か月間ほどの在籍期間となり(中には希望が通り8か月間在籍する人もいますが少数です)、1年間も在籍することができるのは吉田育英会奨学生のみとなります。また、吉田育英会奨学生の場合、奨学金のおかげで生活について心配することなく、1年間仕事に専念することもできます。これは吉田育英会奨学生の大きな利点だと思います。

私も最初は右も左もわからないので客人扱いでしたが、滞在期間が長くなりスタッフから信頼してもらえるようになると、いろいろとおもしろい(けど、難しい)仕事も振ってもらえるようになりました。上述のガイアナとエチオピアのニーズアセスメントへの同行についてもそうです(私の在籍した1年間を振り返ってですが、通常の「インターン」の場合、所属部署にもよりますが4か月間在籍して海外へ派遣してもらえるのは1-2人いるかいないかです)。吉田育英会の提供してくださるこの貴重な機会をどう今後に活かしていくのかは私たち次第です。私たち次第ではとても有意義な経験を積むことができます。

国際協力・平和構築分野で実務家を志望されている方、そして研究者を志望されている方でも選挙監視活動や民主化支援、人権分野、非営利組織マネージメントに関心をもたれている方に本プログラムを強くお奨めします。

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